海外学校関係者の方

在外教育施設事務長会議 2015年度開催内容 講演A<8月6日(木) 10:50-12:20>

テーマ・・・「学校事務局・事務長の職務と事務長に期待すること〜学校経営者の立場から〜」

講師・・・高際伊都子氏 (渋谷教育学園渋谷中学校高等学校副校長/早稲田渋谷シンガポール校理事・副校長)
<プロフィール>慶應義塾大学理工学部数理科卒。東洋英和女学院中学部・高等部/数学専任教諭を経て、1996年に渋谷教育学園渋谷中学高等学校副校長、1999年に学校法人渋谷教育学園評議員、2008年に早稲田大学系属早稲田渋谷シンガポール校副校長に就任。そのほか、学校法人青葉学園評議員、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター評議員、海外子女教育振興財団理事。

◆はじめに(「オリンピックから考える〜失われた50年」)
◆教育改革の流れ
◆教育のグローバル化とは
◆在外教育施設の悩み ◆事務長への期待
◆最後に
◆質疑応答

  • ベビーブーム期から少子高齢化の時代となり、日本では、入学試験の時期を早めたり、教育資金贈与が可能となった祖父母へのサービスを行うなど、児童生徒獲得により注力する傾向が見られる。
  • 今の子どもたちが育ってきている社会背景はマイナス成長期。夢に投資するのに慎重で、結果をすぐに求めたがる傾向がある。その中で、「英語(外国語)」や「ICT」のスキルに対する教育ニーズが高まっている。
  • 大学入学者が1960年代には37%だったのが、いまや55%。大学に行けばエリートという時代ではなくなった。
  • 「新聞」だった情報収集源がインターネットへ。便利になった反面、情報が多すぎて関心が広がらなかったり、口コミに依存したりするなど問題も出てきている。学校に関しては、ツイッターやフェイスブック等に流れた情報が真偽を問わず、拡散してしまうこともあり、ネットとの付き合い方は大きな課題になっている。

 <学習指導要領の改訂と入試改革>
  • 学習指導要領が改訂され、アクティブ・ラーニング(課題の発見と解決に向けて主体的かつ協働的に学ぶ学習)に代表される新しい学びに重点が置かれる。高校や大学の入学者選抜では、知識のみを問う入試を改め、知識に加え、面接や討論など多面的な判定で合否を決める入試への改革が求められていくことになる。
  • 初等中等教育におけるグローバル人材育成を目的に、英語能力の底上げを目指し、小学校3年生から英語活動、5年生からは教科としての英語が導入される。今後、私立中学校においては入試の科目に「英語」が入ってくることも予想される。(児童にとっては、東京オリンピックがモチベーションアップにつながる可能性があるが)
  • 上記のほか、道徳の教科化、いじめ対策の推進、フリースクール等多様な学びへの支援、不登校対策の推進、小中一貫教育の制度化(校長ひとり体制)、高大接続等の教育改革が進められていく。

 <教員免許制度の改革>
  • 学力調査から、「教員が子ども一人ひとりを細かく丁寧に見ることが大切である」とされたが、日本の教員は多忙であり、新しいスキルを身につける余裕がない。そのスキル不足が問題視されていて、離職率も高い。
  • 今回の改革では教員免許を教員としての最小限必要な資質能力を保証するものとし、実務後の研修制度を充実させる一方、特別免許を認めるなどの柔軟な措置も取られている(日本人学校では特別免許は認められていない)。
  • 近年、教員採用の倍率が下がり、教員側にも職場を選ぶ傾向が出てきている。現在、日本の教員は、3・40代が少なく、女性の割合が高い(小学校5割、中学校3割)。在外教育施設に、若い世代や女性の教員が応募しやすい仕組みをつくれると良いだろう。
  • 教員に求められる資質能力は「使命感」「成長・発達についての深い理解」「教育的愛情」「専門的知識」「教養」、今後は特に「地球的視野での行動力」「変化の時代を生きる力」「教員としての力」など。

教育のグローバル化とは

  • 小学校における英語教育の強化。小中学校における外国人の児童生徒の比率がアップ。
  • 教員が「教える」のではなく、たとえば、英語のできる大学生と英語でコミュニケーションをとることで、英語の力をつけようという取り組みが行われてきている。日本人学校でもできる取り組みではないか。
  • (”ランキング”志向が強いため)多くの家族が海外赴任に同行することをネガティブに捉える傾向にある。子どもたちに海外生活の良さをしっかりと伝えることが、在外校でのグローバルな視点を育むうえで大切なことだと感じている。
  • 帰国生にとっての武器は英語力以上に、「海外で一生懸命頑張った経験や、苦労を乗り切ったという自信」。

在外教育施設の悩み

  • 3年単位で多くの教員が帰国するため、方針に継続性を持ちにくい。また、職員室全体に経営的な視点を持てない傾向もある。
  • 国内の学校が多様化している。「どういった学校にしたいのか」、校長の意識を変えることが教育改革には有効。

事務長への期待

  • 教員から見ると、事務方は「モノを直してくれる人」や、「教育にあまりかかわらない人」といったイメージを持ちやすい。また、学習の成果についても、教員は「教育の成果はすぐには答えが出ないもの」といった意識が高い。
  • 学校経営上、社会の変化に敏感に対応していかなければならない事務(局)長は、校長と根気強く話し合い、「社会人的な感覚」を持って教育活動を行う環境をつくれると良い。経験はときにこだわりになることを踏まえ、方針をぶらさずに、「目標やねらい」「成果」を言い続けることが大切。校長の意識が変われば、それが教員たちに伝わり、学校は変わっていく。

最後に

  • 学校が評価されることに戸惑いを持つ教員は多いが、評価されているという意識を持つことが大切。
  • 児童生徒にとっても、教員にとっても、その学校が「母校になれるか」が大切。母校とは、世代差があっても「こういう学校だったよね」と、学校の話ができる感覚ではないか。
  • 皆で課題をシェアして、皆で解決していければ良いだろう

 <在外教育施設運営へのアドバイス>
  • 学校は地域コミュニティーの中心になり得る。資金的な面も含め、現地の児童を入れるという選択肢もあっていいのではないか。本学のブリティッシュスクールは日本人も多く通っており、永住者や長期滞在者も多い。課題もあるが、継続性が大切だと考えている。
  • 運営を考えると学年に100人の児童生徒がいると、活動の幅が広がり、学校らしくなる。非永久的な児童生徒数増への校舎等の設備投資は「賃貸」で対応することもあり得るのではないか。
  • 教員研修は大切。小規模の学校の場合、校内研修のみでは成果は見込めない。夏休み等に近隣の学校で集まったり、ネットを利用して集ったりしてはどうか。また、学校採用教員の場合、何年か単位で勤務校を交換しあうのもスキルアップに繋がり得るのでは。

質疑応答

 
Q1 事務長の役割について、「校長と話し合う」とは具体的にどういうことか?
⇒私立では、事務長が教育の話をするのは普通のこと。同様に、校長にもコスト意識を持ってほしい。また、事務長は立場的に地域からの要望が入ってきやすいと思われるので、それを校長に伝え、学校運営にやる気を持ってもらえるようにすり合わせていくことが大切。カギとなるのは「継続性」。
Q2 学校HPを更新したくても、校長から「しなくて良い」と言われた場合は更新できない…。
⇒日本から在外教育施設のHPを見ている人は多い。校長とよく話しあって、是非、定期的に更新してほしい。もし更新できない理由があるのなら、それをHPで案内すべきではないか。
Q3 日本では英語教育が急速に進められているが、日本人学校でも地の利を生かした取り組みが必要と考える。時間的な猶予はどのくらいあると思われるか?
⇒時間の猶予はまったくないと考えて良いのではないか。文部科学省は英語に対する取り組みには柔軟な姿勢で臨んでいて、日本ではすでにスタートを切っていると言っても過言ではないだろう。
Q4 「英語の授業で英語が身につく」わけではない。日本人学校で学んだ子どもたちには帰国後、日本の学校を変えていくような存在であってほしいと考える。
⇒同感。海外に住み、何をしたかという経験が貴重。日本人学校を勧めるためにも、在外教育施設から帰った子どもたちの進路や活躍状況を調査し、公開できると良いだろう。

以上