海外子女教育ニュース

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2022年度 第2回経営アドバイザリーコミッティーを開催(海外子女教育振興財団)(2022年12月号)2022.11.21

海外子女教育振興財団(JOES)は10月25日、本財団の綿引宏行理事長と浅原賢業務執行理事がホストとなり、JOESが児童生徒、保護者のかたがたをはじめすべてのステークホルダーにとってよりよい支援、サービスを展開していくために、今年度第2回経営アドバイザリーコミッティーを開催した(第1回は5月に実施)。コミッティーのメンバーは昨年度から引き続き、東京大学大学院情報学環客員教授の辻村清行氏、環太平洋大学および国際大学IPU New Zealand学長の大橋節子氏、渋谷教育学園渋谷中学高等学校長の高際伊都子氏、ミネルバ大学元日本連絡事務所代表の山本秀樹氏。
まず、綿引理事長が第1回アドバイザリーコミッティー開催後のJOESの動きについて、特に六月に成立した「在外教育施設における教育の振興に関する法律」(振興法)に対応したプロジェクト案を説明し、新たに浮かび上がってきた課題や可能性についても具体的に説明した。
JOESは今後、「在外で学ぶ子どもたちは、日本の将来のコモンセンスを創造する原動力である」という信念のもと、振興法の具現化に貢献し、今回は検討事項とされた「帰国児童生徒に対する日本語支援」や「就学前の子どもへの支援」に関しても5年後の振興法見直しに向けて具体的提言を目指していく。メンバーからは次のアドバイスをいただいた。
振興法の成立に深くかかわり、教育現場をよく知る高際氏は実現可能性を視野に入れながら次のように述べた。
「課題が明確になってきているように感じる。日本人学校がさらに『選ばれる』ためには各校の特徴を明確にして、子どもの個性に合わせて伸ばす教育を打ち出していくことも必要。なお、『日本人学校に通ってよかった』と思える魅力的な取り組みをJOESが計画し全世界に向けて発信している点に感心した。続けていってほしい。
改革するにあたってはスキームを細やかにして段階的・部分的に行っていくことを勧めたい。また在外教育施設は駐在員の動向で左右される面が大きいため、将来のありたい姿と現実解を視野に入れつつ、企業の展開に関する調査も進めていくことが必要だろう。
5年後に向けて『幼稚園』や『日本語教育』に関しては課題もあり、まずは振興法の足もとを固めることが大切。日本ではOKだが日本人学校ではNGという部分を洗い出して取り組んでいけるとよいだろう。特に『幼稚園』に関しては日本人学校が併設しているところも多く、振興法との関連をどう考えるかがポイントになるのではないか」
ミネルバ大学で新しい学びをつくり運営した経験のある山本氏はミネルバ大学の教育の紹介も交えながら次のように語り、展開次第で明るい未来が開かれることを予感させた。
「経営に苦労している日本人学校においては経営課題の中身を検証・解消する計画に基づいてサテライトキャンパスでの運営や現地校との融合などの対策を考えられるのではないか。国内外でモデルになり得る学校があるので参考にしてはどうか。
またJOESが学校向けに提供を考えている『ラーニングプラットフォーム』に関しては、子ども自身が自分のキャリアに合わせて登録・設計できるようになると、データベース的にも有意義なものになる。いまやネットで世界中から学習コンテンツを取れる時代。『ほかの学校の授業も受けてみたい』と考えている子どもは多くいる。各学校はそれを実践できる学習機会を用意することが大切になってくるだろう。この『ラーニングプラットフォーム』が世界中で共有されるようになれば、日本の教育を大きく進化させる力になるのでは。また日本語教育については日本文化の啓蒙という視点で進めていくストーリーも考えられるのではないか」
幼児教育施設から大学までの運営に幅広く携わっている大橋氏は次のようにポジティブに話した。
「教育に対して国はもっと予算を取るべきではないか。今後、日本企業が海外に出ていくのは必須となり得るなか、在外教育施設の運営が困難な学校があるというのは残念。国内の幼児教育施設を見ても少子化等の影響で閉鎖が相次いでいる状況で教育の在り方に不安を覚えるが、選ばれるところは生き残っている。では『限られた条件のもとでどうすればいいのか』。集団で学ぶことから、多様な学び方へとこのコロナ禍で学びの定義が変容している。JOESは日本の教育のグローバル推進の窓口となり、これまで積み上げてきたものにこだわらず、思い切った施策を政府に投げかけたらどうか。
また、幼児・学齢期における日本語教育への取り組みについては日本文化を切り口にするなど根本から考え直してみてはどうか。キャリア教育においては日本の大学生と海外にいる小・中学生をつないで未来を考えさせるなど、実現可能なところから進めていくとよいだろう」さらにICTに関する専門家で教育やビジネスの世界でも豊富な経験を持つ辻村氏は次のように話した。
「財団の中期計画は突っ込んだ議論をいかにきちんと行うかが重要で、その後数年間の充実度を左右する。1年ごとに見直しながら進めていくとよいだろう。今後の社会はリアルとネットをどう融合していくかが問われる。ビジョンを明確にして肝となるシステム改革を進めていくべき。
在外教育施設の経営分析に関してはクラスターを考え、個別校で見るのではなく地域単位等の幅広い視点で全体を見直していくとよいのではないか。オンラインを活用し、教育内容に関しては地球規模で授業を視聴できるようにしたり、学校運営に関しては地域で連携したりアルムナイ活動を取り入れたりするなど、それぞれ別建てでリアルとオンラインを融合させた新しい仕組みづくりができるように思う。また、そこには関連する人たちの『思いの共通化』を丁寧にはかることが大切」辻村氏はこのようにマインドの重要性にも注意を喚起したうえで「改正振興法に向けては待ったなし。これからの33年がカギを握る」と述べた。
会終了後、オンラインで視聴していたJOESの職員からは「第一線で活躍されている皆さんの経験に基づいたアドバイスをいただけるのはとても有意義で感謝している」、「たいへん勉強になった。5年後の改正振興法に向けては準備を考えれば時間がない。自分ができることを考え実行していきたい」などの声が上がり、さっそく職員同士で議論する姿が見られた。
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