海外子女教育ニュース

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第1回経営アドバイザリーコミッティーを開催(海外子女教育振興財団)(2021年7月号)2021.06.18

海外子女教育振興財団(JOES)は5月26日、本財団の綿引宏行理事長と浅原賢理事がホストとなり、「(本財団の)新たな価値創造への挑戦」をテーマに、第1回経営アドバイザリーコミッティーをオンラインで開催した。
コミッティーのメンバーは東京大学大学院情報学環客員教授の辻村清行氏、環太平洋大学および国際大学IPU New Zealand学長の大橋節子氏、渋谷教育学園渋谷中学高等学校および早稲田渋谷シンガポール校副校長の高際伊都子氏、ミネルバ大学元日本連絡事務所代表の山本秀樹氏、さらにオブザーバーとして文部科学省国際教育課長の北山浩士氏と同国際調整企画官の田中秀和氏が参加した。
はじめに綿引理事長が今回のコミッティーを開催した目的について、「With/After Coronavirus・新たなグローバル競争の時代にあって、本財団が海外子女・帰国子女教育の未来に向けてより大きな価値をすべてのステークホルダーズに提供し続けられるよう、各分野の有識者のかたに討議してもらい、関係者に提案していくことで、維持会員のみならず日本社会・経済の発展に寄与していきたい」と述べた。
続いてJOESの概況、海外子女・帰国子女および在外教育施設の現状や課題等をデータ等で示した。海外子女数は増加傾向が続いていたが、2020年は新型コロナウイルスの影響で大きく減少したことや、日本人学校にも補習授業校にも通わない子どもが増えていると予想されること(19年以降、外務省による公表なし)等についても説明し、今後のJOESの新たな価値づくりに関して、おもに次のようなシナリオを提案した。

  •  JOESは十年後を見据え「世の中になくてはならない存在」であり続けるために、子ども・保護者・維持会員・在外教育施設・社会をステークホルダーズとする。
  •  グローバルな視点とアイデンティティを持った次代の日本に貢献できる人財を育成するために、エビデンスをベースとした「ネットワーク」「教育相談」「在外教育企画」の機能を核に、ICTを活用して海外子女・帰国子女教育のプラットフォームを担っていく。
  • JOESが「ありたい姿」を実現させるために「働きがい改革」「人事制度改革」のほか、「ステークホルダーズベース型システム改革」を行い蓄積されたデータが「次」に生きるようにしていく。
  • 海外子女・帰国子女への学習や自己啓発の機会を創る新規プロジェクトを実施していく。

これらを受け、各メンバーからは次のような意見等が出された。
国内外でおもに中・高生の教育に携わり、教員支援にも詳しい高際氏は「それらを実現させるにはシステムを検討するための全体のエビデンスが欠かせない。国へのお願いになるかもしれないが、支援の必要な子どもがどこに何人いるのかという情報を入れてほしい。
また、データベースはつながってこそ意味を持つ。在外教育施設は国内の情報をタイムリーに取得できる環境が必要。教員に対してツールを含めた支援体制の強化をお願いしたい。保護者が得ている情報を『先生が知らない』では学校不信を生む。子どもたちが取り残され感を持たないような体制の整備が必要ではないか」と述べた。
さらに、2019年から公表されなくなっている日本人学校にも補習授業校にも在籍しない子どもの情報について「受け入れ校に在籍する帰国生の履歴を追うことで傾向をつかめるかもしれない。なぜ日本人学校や補習授業校に通わなかったのかについても聞き取りができる」と話した。またアイデンティティに関していちばん悩んでいるのは子ども自身で、「帰国生の先輩とつないであげることが大切。できることから始めれば、そこからアイディアが生まれる」と教育現場からの声を届けた。
次に、ICT教育や学習環境の専門家であり、ビジネスの世界でも豊富な経験を持つ辻村氏は「海外子女の半分は日本人学校にも補習授業校にも通っていないということだが、それはよくないことなのか、本人や保護者はどう考えているのかというエビデンスが必要。どの学校に通おうが、日本人としてのアイデンティティは必須であり、彼らにそれをどう伝えるのかを考えないといけない。外国人とディスカッションをしていると『日本人』としての意見を聞かれることが多く、アイデンティティがないと信用されない。JOESには今後のプロジェクトの対象を在外教育施設に通っていない子どもたちにも広げ、彼らにアイデンティティを授ける教育の一翼を担ってもらいたい」と要望した。
さらにシステム改革に関しては、自身の経験を踏まえ「システムで何をしたいのかを明確にすること」、「内部の皆が学び、共通理解しておくこと」、「一遍につくろうとせず反応を見ながら徐々に進めていくこと」、「問題が起きたときの支援体制を整えておくこと」が大切だとアドバイスした。
次世代教育の専門家で、学校に行けない子どものサポートにも長年取り組んでいる大橋氏は「海外子女や帰国子女だけの問題ではなく、日本は教育情報の共有化ができていないと感じる。公立・私立、管轄省庁に関係なく縦割り行政を解決してほしい」と訴えた。
また、日本人学校・補習授業校離れから心配される「子どもたちの心が日本から遠ざかっていく」ことについては、危機感を持つべきことなのか、世界観が広がったと考えてよいのか、その情報をどう捉え共有していくかがポイントになると話し、「子どもは目の前にいる。中長期計画も大切だが、まずは目の前の子どもをどうするのか、『いま』を大切にしないといけない。JOESは海外駐在員を対象にアンケートを行っているとのことだが、気持ちを聞くことは重要。求められる支援をすることで、子どもたちが『将来、日本企業に恩返しをしたい』と思ってくれたら素敵なこと。JOESには維持会員に対して『会費の倍の価値を返す』という姿勢を持って取り組んでほしい」とエールを送った。
続いて、小学生のころにフランスで現地校に通った経験を持ち、「志をもつ人が、自分の夢に向かって、学べる環境を創る」ドリームプロジェクトスクールの運営も行っている山本氏は、アイデンティティの大切さについて「フランスにいたころ、アジア人として蔑視されたこともあったが、日本人としてのアイデンティティが支えになった。またケンブリッジ大学にMBA留学した際は、自国の文化・背景を持った意見を言えてこそ相手にしてもらえた。『日本人の空気を読む感覚は素晴しい』と言われたこともある」と話した。さらに日本の教育業界におけるIT化の遅れに対し、「学校の情報収集が家庭より遅れているというのはよくない。インフラが整っていないと聞くが、端末を配付するだけでなく、グローバルスタンダード化されたラーニングマネジメントシステムを構築すれば教員の仕事の効率は上がり幅も広がる。いまの状況では新プロジェクトなどできないのではないか」と警鐘を鳴らした。
そして「将来的に日本企業は日本人だけのものではなくなるだろう。日本の風土を知り、日本企業で働きたいという外国人をどう育てていくかもカギになってくる。在外教育施設は子女教育の分野を超え、日本に興味を持つ現地の人を対象にワークショップを開くなど、日本文化の発信拠点になってもよいのではないか」と提案した。
綿引理事長はそれぞれのアドバイスに感謝し、「複数の会員企業とのヒアリングからも、海外に日本ファンをつくることが今後の企業の地盤になることが読み取れ、在外教育施設は大きな力を持っているとあらためて感じる。日本文化を発信することで新たなグローバル教育が育つ可能性もある」と国際教育特区的な発想を語った。
最後に、文部科学省で在外教育施設の充実に取り組んでいる北山氏は「日本人学校の子どもの数は約二万人で国内の小・中学生九百万人と比較すると軽く見られがちだが、日本と同じようにするための説明が重要。コロナの影響で日本人児童生徒が減ったため教職員充足率が高まったように見えるなかでさらなる充実を要求し、現地のICT環境が悪いなかでその充実をはかっていくためには十分な説明が必要」と現状を語った。
そのうえで、「現在、副大臣のもとで在外教育施設の充実に向けた検討を行っている。日本人学校は国内同等の教育を行うことが求められる一方で海外ならではの教育によるグローバル人材の育成も期待されているため、研究開発校的な位置づけと支援を行うことを検討中。また日本国内では各教育委員会から学校に情報が伝達されるなど教育委員会によるサポート体制があるが在外教育施設にはそれがなく、先生がたがアクセス・情報共有をしやすい仕組みの開発も検討中。今後の日本経済は外需の取り込みが必須であり、海外の駐在員が安心して家族を同伴できるようなインフラとして在外教育施設の充実をはかりたい」と述べた。
第2回のコミッティーは11月に開催が予定されている。

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